富山医科薬科大学教授 田澤賢次 弘前大学医学部老年科学講座教授 水島 豊共著「男と女の腸内ミステリー」より抜粋

一日一個のりんごで病知らず
医者が青くなる

昔から「一日一個のりんごで病知らず」とか「リンゴが赤くなると医者は青くなる」とかいわれてきました。これは、リンゴのさまざまな栄養素が体内に吸収されると、健康を維持できるという高い評価を受けているからです。リンゴの効用については、人間が栄養学を云々する以前から、こんな言葉が言われるほど経験的に知られていたのです。
近年のリンゴ研究によって、毎日一個食べることで、疲労回復、コレステロールを下げる、肥満を防ぐ、大腸がんを防ぐ等等の作用が発見されたことにより、このような言い伝えが、単なる経験ではなく、論理的にも裏づけられるようになってきました。まさに、医者の顔を青くする事実が発生しているのです。
リンゴの糖分は、果糖とブドウ等が主でエネルギーに変換されやすく、また、すっぱさの素は、乳酸の生成を抑えるクエン酸やリンゴ酸、酒石酸などで、これらの有機酸は0.5%も含まれ、疲労回復の働きをするのです。
リンゴは消化吸収がよく、成人病にも有効な食べ物でした。食欲がなくなったり、思うように食事がとれなくなったりしたときには、皮ごとすりおろして食べると、案外体内に入っていき、とりあえずの栄養は満たされることになります。

皮にこそ貴重な栄養が

果肉と果皮の栄養価を比べてみると、繊維、カルシウム、ビタミンのすべてにおいて果皮のほうが1.6倍から4倍高いという数値の差を見せています。(表1参照)

食物繊維の作用は王様の貫禄

食物繊維は、長い間栄養学的にはほとんど無視されてきました。ところが、今や果物の食物繊維、とくにりんごの食物繊維は、虫歯だけでなく、大腸がんを防ぐ上で、非常に有効な成分であることがわかってきたのです。
りんごの食物繊維は水溶性で、「アップルペクチン」、あるいは「リンゴペクチン」などと呼ばれます。
水溶性食物繊維は、水に溶けるとゼリー状に固まり、便秘のときには便を柔らかくして排便を促し、下痢のときはゼリー状にの幕になって腸壁を守るという働きがあります。 リンゴの整腸作用というのは、このアップルペクチンが腸内の環境を整える働きのことなのです。アップルペクチンには、他の果物のペクチンと比べて、非常に強い静菌作用があり、腸内の悪玉菌の発育に関しては、オレンジペクチンより約5倍の抑制効果が認められています。
しかも、乳酸菌などの腸内の善玉菌を増殖させるという働きがあります。乳酸菌は悪玉菌を殺すほか、腸の蠕動運動を促すので、下痢や便秘を治し、発癌物質の発生も抑える働きをすることが知られています。
  (1)腸内の悪玉菌の発育抑制効果
  (2)整腸効果
  (3)血糖値の上昇をゆっくりさせる
などの働きがダントツに高いという評価なのです。

アップルペクチンの大きな働き

リンゴの働きで特に注目すべき点は、アップルペクチンに見られる、大腸がんを抑える働きや悪玉コレステロールを減少させ、善玉コレステロールを増やす作用です。(農水省果樹試験場 田中敬一博士)
元青森市民病院院長武部和夫先生は、10名の糖尿病患者に、食事とともにリンゴ繊維を毎日5〜15g(リンゴ2〜6個相当分)を、六ヶ月与えたところ、動脈硬化指数が低下し、HDLコレステロールの増加を見たと報告しています。
腸内の悪玉菌の発育を抑制する、あるいは減少させるというだけでも大きな働きで、有益なわけですが、これに加えて善玉菌を増やすという働きまでするのですから、その食品価値が一層高いものに評価されるのは当然です。
しかも、ペクチンは、同じような働きを持つカテキンと違い、空気に強く、切ってもすりおろしても効果は変わらず、熱にも強いため、料理に使っても従来の働きを損なうことはありません。
リンゴは、生のほかに煮たり、焼いたり、すりおろしたり、ジュースにしたりと、幅広い調理方法で処理できるので、食材としても便利です。どんな食べ方をしても、体内でみずからの働きを粛々として行ってくれる頼もしい食品だということになるわけです。
もう1つの大きな働きは、食後の血糖値をゆっくりと高め、長時間持続させるということです。
これは糖尿病に有効です。食後の血糖値の上昇にかかる時間を表すものに、グリセミック指数というのがありますが、これを測ると、リンゴの場合は数値が最も低い部類にありました。リンゴを食べても血糖値は上昇せず、ゆっくりと長い時間をかけて上がっていくのです。このインシュリンがゆっくりとすこしずつ放出させるということは、糖分を制限されている糖尿病の人にとっては、大変好都合で、高血糖による障害を防ぐことになるわけです。

アップルペクチンの驚くべき効果

食物繊維の成分であるアップルペクチンやオリゴ糖は、リンゴジュースをつくった後の絞り粕です。このアップルペクチンについて、富山医科歯科大学の研究グループが、他に先駆けて研究に着手し、その働きや性質について、他の食物繊維には見られない興味深い事実を発見しました。
  (1)オレンジよりも高い静菌作用がある。
  (2)腸内の善玉菌を増やして悪玉菌の排出を促す。
  (3)腸内の活性酵素の発生を抑制する。
  (4)大腸ガンの肝移転を防ぐ。
静菌作用、善玉菌を増やす、活性酵素の発生を抑制するなどの働きは、一般の食物繊維にも大なり小なり認められているものです。ところが、アップルペクチンにおいては、これらの作用の効率が食物繊維の中でも突出して高いのです。