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13.土壌改良 |
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りんごの生産は地力に依存するところが大きく、特に初期生育は、その後の生育、収量に大きく影響する。新植、改植に当たっては土壌の諸性質をよく把握し、有機物及び石灰質肥料の施用と深耕、排水対策、植え穴改良などを十分行うことが重要である。また、既存園は有機物、石灰、苦土などの塩基類の補給が十分行われないままに、これまで長年にわたってりんご栽培をしてきたことから、土壌の理化学的性質が悪化し、総合的な地力が低下している。このことが各種障害の発生を助長し、生産力を低下させているのが現状である。したがって、生産力の増強を図るためには、新種及び改植園、既存園いずれの場合も牧草草生を中心とした土壌管理を行い、土壌診断などを活用して土壌の健康状態を調査し、土壌の悪化防止対策を実施する。主な土壌の性質、要因と改良対策を示すと図のとおりである。また、土壌改良目標値を示すと次のとおりである。

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1) 新植及び改植時の土壌改良 植え付け後の土壌改良は困難なことが多いので、新種及び改植時に深耕、心土破砕を実施し、堆きゅう肥や石灰質肥料など改良資材を大量に施用する。 (1) 全園の改良 ア 園地造成及び土壌改良の順序 園地造成及び栽植までの土壌改良手順を示すと次の通りである。

イ 園地造成及び土壌改良の具体策 新規開園、改植園における園地造成及び土壌改良は次のとおり実施する。なお、水田転換園については「水田転換園の土壌改良対策」の項を参照。 (ァ) 抜根・排根処理 根は丁寧に拾い集め、処分するか、園外に搬出する。 (ィ) 造園形態と切土、盛土 機械化作業を前提とした造園形態は土地の傾斜度が10度以下の地形では山成り畑、10〜15度では作業道型斜面畑、15度以上では作業道型階段畑とするのが一般的である。しかし、21度以上の新規造成地では、造成後4〜5年経過しても未栽植の園地が散見され、土地利用性を悪くしているので、あまり急な勾配の場所は造成しないようにする。また、最近では機械力を利用し、複雑な地形を整えて斜面の山成り畑にしている例もあり、部分的あるいは全面的な地形改造によって切土、盛土部分ができる。切土部分は硬くて、せき薄な下層土が露出するので、深耕などの対策を徹底する。また、地形改造に伴って、沢やくぼ地が埋められることが多いが、自然排水を促進させるためにはできるだけ沢をそのまま残して活用する。 (ゥ) 地ならし 平坦地や山成り畑では、抜根。排根を行なったときに地表面に凸凹ができるので、軽く地ならしをする。 (ェ) 心土破砕 下層土がち密で、根の伸長を阻害しやすい土壌では60cmまで心土破砕をする。心土破砕にはリッパードーザ―、バックホー、ブルドーザーなどを利用するが、リッバードーザーは縦、横2反復くらい走行する。改植園では抜根時及び深耕時に根を丁寧に拾い集める。心土破砕後は深耕用プラウ(トラクターに接続)や深耕用ロータリーで30〜40cm耕うんする。その際、堆きゅう肥と石灰質肥料を施用する。 ウ 土壌消毒 改植園では、紋羽病や改植障害(いや地)の発生を防止するため、クロルピクリンによる土壌消毒を必ず実施する(「紋羽病」の項を参照)。土壌消毒した場合、薬剤処理後3週間以上経過してからガス抜きを行い、堆きゅう肥の施用はその後に実施する。 エ 堆きゆう肥の投入 新植及び改植時には10a当たり5〜6tの堆きゅう肥を準備するが10a当たり4t程度を全園に施用し、植え穴への施用量は第Uー47表の「植え穴づくりの目安と改良資材の施用量」を参照する。 オ 緑肥作物の利用 (ァ) 堆きゅう肥が入手できない場合は有機物補給のためにライグラス類、青刈ライ麦類、ソルガム類(スダックスなど)の緑肥作物を栽培して鋤込みをする。 (ィ) 緑肥作物10a当たりの播種量は下表のとおりである。また、鋤込みは植え付け2か月ぐらい前までに終える。

(ゥ) スダックスなどソルガム類の播種に当ってはその栽培期間が2か月、鋤込みしてから植え付けまでの腐熟期間が2か月であることを考慮して播種期を決定する。播種時期は降霜がなくなった5月中旬から7月末頃までである。例えば、土壌消毒を6月初めに実施し、11月の秋植を想定した場合、7月初めに播種し、約2か月間栽培して9月初め頃(出穂直前)に鋤込む。 (ェ) 各種緑肥作物の生草量は表のとおりである。

カ 石灰質肥料の投入 (ァ) 新種及び改植時の石灰質肥料の施用は苦土の含んだものを使用し、将来の主要根群域(60cm)を見込んだ量を投入する。その必要量は土壌の種類、pHによって異なるが、10a当たり沖積土壌及び県南の火山灰土壌で800〜1,500kg、津軽の火山灰土壌で2,000〜3,000kg、傾斜地土壌(残積土壌)では1,600〜2,400kg施用する(「酸性土壌の改良」の項を参照)。 (ィ) 石灰質肥料は深耕用プラウか深耕川口一夕リーによる耕起の前に半量を施用し、残りの半畳をロー夕リ―耕うん機などで砕土するときに施用する。 キ 集排水対策 階段畑の直下では停滞水を生じやすいので排水路を設置する。また、傾斜地の下部では、押し水によって排水不良地になりやすいので暗きょや明きょを必要とすることが多い(「水田転換園の土壌改良対策」の項を参照)。 ク 土壌侵食防止 土壌侵食を防止するには、深耕後できるだけ早い機会に草生栽培を実施する。しかし、新植地のようにやせた土壌では、単純に牧草を播種しても草の伸びが悪く、また生育むらができ、侵食が起こることが多い。必ず土壌改良を行ってから牧草を播種する。また、大きな断崖などで、土くずれの生じやすい場所には、牧草の吹きつけ工法を考慮しておく。階段畑では、法面の保護のため、草生、杭打ち、芝生の張付けなどを行なう。特に、法面の肩部分は十分に強化する。 (2) 縫え穴の改良 植え穴の大小はりんごの一生を左右するから、苗木を植える時はできるだけ植え穴を大きく掘り、適量の改良資材を施用して土壌改良をする。 ア 植え穴の大きさと掘さく 植え穴はできるだけ大きく掘ることが理想であるが、人手による掘さくは多くの労力を必要とするから、できるだけ大型機械を利用して植え穴づくりをする。一例を示すと下表のとおりであるが、心土を破砕しないなど土壌改良が不十分な場合には、幅90cm、深さ60cmの大きな植え穴とする。

イ 改良資材の使い方 (ァ) 使用する堆きゅう肥、溶成りン肥、苦土炭カルなどの改良資材は植え穴の大きさ、土壌の種類によって施用量を変える。また、堆さゆう肥はよく腐熟したものを使用する。 (ィ) 植え穴に改良資材を入れる場合は土とよく混ぜて埋め戻す。また、表層土と中層土は丁寧に混合する。 (ゥ) 堆きゅう肥が入手できない場合はアズミン、テンポロン、ハイフミンなどの化学堆肥やピートモスなどを施用する。約2kgを土と混合して根ぎわ部に施用する。 (ェ) 改植りんご園に幼木を植え付けるときは、植え付け後の生育をよくするため、古い根を丁寧に拾い集めてから改良資材と土を混合する。 ウ 水みちの設置 新植地で心土破砕ができなかった時は、植え穴に水がたまり苗木を枯死させている例が多いので、水みちを作って過剰水を排除する。水みちは溝掘り機で樹列に沿って溝を作り、傾斜下方へ導く。また、もみ殻などの疎水材を入れる。 (3) 植え付け後の肥培管理 ア 肥料は活着してから(6月ころ)、10a当たり窒素2kg相当量を施用する。 イ 生育が劣った場合には、初めの1〜2年間は尿素の葉面散布(水100l当たり尿素200g)を数回行う。 ウ 新植地など乾燥の激しい地帯ではマルチ(敷わらなど)を実施する。 |
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2) 既存園における土壌改良 成木園での深耕を伴う土壌改良は断根障害が懸念されるので年次計画を立てながら実施する。 (1) 樹列間の改良法 大型トラクターに深耕用プラウや深耕用ロータリーを接続して30〜40cm深耕したり、トレンチャーを利用する方法がある。改良資材は大型トラクターを利用する場合、10a当たり堆きゅう肥1,000kgぐらい、石灰質肥料250〜500kg、また、トレンチャ―を利用する場合は溝10m当たり堆きゅう肥70kgぐらい、石灰質肥料4〜8kg施用する。 (2) 樹冠下の改良方法 ア デガ一による改良 デガ一による深耕は、通常の成木園では幹から1.8〜2.5mの範囲を対象とし、径60cmのデガーでは4〜6穴、径23cm〜30cmのデガーでは12穴程度とし、3〜4年間継続する。若木園では樹冠円周部から始め、漸次外側へ広げる。改良資材は径60cmのデガーを利用した場合、一穴当たり堆きゅう肥10kg、石灰質肥料0.5〜1.0kg、径23cm〜30cmでは堆きゅう肥2〜5kg、石灰質肥料0.2kgを施用する。 イ 吹起耕式土壌深耕機による改良 断根障害がなく、樹冠下深耕(膨軟化)ができる機種として、吹起耕式土壌深耕機(パンダーなど)があり、土壌が硬い園地で利用性が高い。 |
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3) 酸性土壌の改良 近年、酸性土壌の改良は停滞気味で、半数以上の園地が強酸性〜極酸性になっている。未改良園では石灰質肥料の大量施用を実施し、改良園でも酸性化防止のために、石灰質肥料の施用を続ける。 (1) 改良する目標pH値 ア りんご園における酸性改良の目標値はpH(KC1)5.5、pH(H2O)6.0とする。 イ 酸性土壌を改良する時はpHメーターを使用して酸度検定を行う。土壌は深さ15cmごとに60cmまで柱状に採取し、pHを測定して石灰質肥料の必要量を算出する。 (2) 10a当たり石灰質肥料の必要量 ア 土壌の種類・pHと苦土炭カルの必要量 石灰質肥料の必要量は土壌の種類、pH値によって異なるが、主要根群域60cmの深さまで改良するために必要な苦土炭カル量は表のとおりである。

イ 石灰質肥料の種類と必要量 使用する石灰質肥料の特徴と必要量を示すと表のとおりである。例えば、津軽の黒色火山灰土壌のpH(KC1)が4.0の場合、苦土炭カルの10a当たりの必要量は、表から3,120kgとなる。苦土炭カル以外の例として、苦土消石灰を使用する場合は、3,120kg×0.79=2,465(kg)が10a当たりの必要量となる。

(3) 施用方法 ア 表面施用 (ァ) 表面施用では、根群分布の多い樹冠下に施用する。普通台樹では樹冠下(幹を中心に5m四方)を対象とし、苦土炭カルを使った場合には20kg程度を施用する。すでに大量に施用されている園地では耕うんを繰り返し、下層浸透を図る。耕うん機を使用して耕起する場合は大きな根を切らないよう注意する。 (ィ) pHの改良された園地では10a当たり樹冠下施用で100kg程度(20本植で1樹当たり5kg)を施用して酸性化防止に努める。 (ゥ) 初めてりんご園を耕起して石灰質肥料を施用するときは、断根の悪影響を避けるため晩秋に施用した方がよい。すでに酸性土壌の改良を進めているときは、三要素肥料を先に施用し、降雨があった2〜3日後に石灰質肥料を施用する。降雨がない場合には、施肥後2週間ぐらい後に施用する。石灰質肥料の施用後は耕うんする。 イ 圧力水による注入施用 断根することなく一挙に深層までの土壌改良を図り、粗皮病など生理障害樹の回復を早めるためには石灰質肥料の注入施用を行った方がよい。石灰懸濁液を灌水ポンプや高圧ポンプに接続した注入棒から吐出させ、その吐出圧力で土壌をせん孔して石灰質肥料を深層まで施用する。通常、水1,000JBに60〜80kgを溶かし、樹冠下に注入する。若木では樹の大きさによって施用面積を調整する。 |
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4) 暗きよ排水 排水不良りんご園は土壌の過湿により生育不良、収量、品質の低下を招くばかりでなく、大型機械の導入による踏圧障害をうけやすい。これらの園地は他の土壌改良に先んじて早急に改善をしなければならない。 (1) 暗きょの組織 暗きょの組織構成は一般に表のとおりである。

(2) 排水計画の立て方 暗きょの施工にあたっては、排水口の位置、深さと間隔、勾配と管径など排水計画を十分検討する。 ア 排水口の位置 排水口の位置は排水路や河川の水路と落差が十分とれるところに設定する。沖積土地帯のように落差が小さいときは、延長排水口を設定するか、機械排水を行う。 イ 暗きょ配列方向 計画地区が平たん地か、又は極めて緩やかな傾斜地のときは、排水口の位置や傾斜の方向によって決定されるが、洪積台地のような緩傾斜地は支線(吸水きょ)をできるだけ等高線上に配列する。 ウ 暗きょの深さと間隔 地下水位を地表下100cm以下に保つために暗さよの深さを120〜130cmとする。また、暗きよの間隔は2樹列ごとにする。 エ 暗きょの勾配と管の大きさ 暗きょの勾配は火山灰土地帯では、地形的につけ易く、沖積土地帯のような平たんな園地では勾配をつけにくい。いずれの園地でも1/250〜1/300の勾配をつけるようにする。吸水管は60mmぐらいのものを使用し、その延長も100m以内にとどめる。集水きょの管径は支配面積や暗きょの勾配によって異なるが、支配面積、勾配と管径との関係を示すと表のとおりである。

オ 使用する暗きょ資材 暗きょ資材としてポリエチレンや塩化ビニール製のさテざまな資材が使用されているが、資材の選択に当っては、土の重さや大型機械の踏圧で変形しないような管を選ぶ。 (3) 暗きょの施工 暗きょの施工は資材の配置-掘さく-パイプの設置-理め戻しの工程で行う。 ア 資材の配置 暗きょ資材はきょ線に沿って前もって適当に配置しておく。 イ 掘さくとパイプの設置 トレンチャ―施工の場合にはすべて下流から行う。また、掘さく時には、深さや勾配を確認しながら、溝底に凸凹を生じないようにし、溝底に落ちた土塊はすくい上げるか地ならしをする。 ウ 被覆材料 管内への土砂の流入を防ぎ、水を管内に流れやすくするために、もみ殻やホタテ貝殻などで吸水管を被覆する。被覆物は管の底部には使用しないで、上と横だけに使用する。 エ 埋戻し パイプの設置と同時に、パイプや被覆物を保護、固定する程度仮戻しをする。本格的な埋戻しは排水を確認してから行う。 オ 施工時期 (4) 排水口の管理 ア 排水口の管理 排水口はコンクリートなどの保護工事をする。 イ 水路の整備 排水口から確実に排水させるためには、消雪期のように水量が多いときでも水路に突出した排水口が水没しないようにすることが大切である。そのため随時水路の泥上げや草の刈り込みをする。 (5) 経費 暗きょ排水の経費は実施面積、施工方法などによって異なるが、個人施工の場合の経費を試算すれば次のとおりである。
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