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15.土壊管理 |
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りんご園土壌から年間消耗する有機物は堆きゅう肥で10a当たり約1tと推定される。一方、牧草草生による1年間の有機物の補給量は土壌の化学性の改善効果からみれば、堆きゅう肥換算で10a当たり約1tに相当する。このように、牧草草生栽培では自園における自然界のサイクルを活用し、りんご園の地力維持に必要な有機物が十分に補給できる。また、牧草草生栽培は傾斜地の土壌侵食をほば完全に防止し、石灰、苦土などの塩基類の溶脱を抑制するとともに硬化した土壌物理性を改善する効果がある。この牧草草生を基本とした土壌管理体系は、地力増強のための堆きゅう肥施用及び年々消耗する石灰などの塩類の補給を組み合わせた最も安価な地力維持増強のための土壌管理方法である。土壌管理の現状をみると、そのほとんどが雑草草生であり、堆きゅう肥、石灰質肥料を施用している園は少なく、また施用畳も十分でない園地が多い。このために総合的な地力が低下している。これらのことが生理障害の発生、樹勢衰弱に伴う病害の発生を助長する要因となるので、今後は低コスト、商品質、安定生産を目指して十分に管理された牧草草生栽培を実施する。 |
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1) 牧草草生を基本とした土壌管理体系

標準的な普通台成木の園地では幹を中心に5m四方を樹冠下(10a当たりの樹冠下面積は500m2)、それ以外のところを樹間部とし、樹間部は牧草草生とする。樹冠下には、毎春、堆きゅう肥(10a当たり600kg程度)、石灰質肥料(苦土炭カルで10a当たり100kg程度)を施月し、5cm程度の深さで軽く耕うんする。その後は樹冠下、樹間部とも同様の草生管理(草刈りなど)をし、樹間部から刈り取った草は樹冠下へ敷く。わい性台樹の園地では樹冠下は中耕と除草剤を利用して清耕を維持する。樹間部は普通台樹と同様に牧草草生とする。樹冠下には、毎春、堆きゅう肥(10a当たり600kg程度)、石灰質肥料(苦土炭カルで10a当たり100kg程)を施用し、5cm程度の深さで軽く耕うんする。その後は樹冠下清耕、樹間部を草生とし、樹間部から、刈り取った尊ば樹冠下に敷革する。 (1) 草生栽培 雑草草生は有機物補給量が少なく、地力にむらができ、また、管理も粗放になり易いので牧草草生とする。 ア 牧草草生による有機物の補給量 牧草草生では、地上部の刈り取りによって大量の有機物が供給されると同時に、樹間部では地下部の根の老化と、腐巧によって有機物が土壌に還元される。牧草草生による年間産草量は表のとおりであり、乾物重で500〜600g/m2の有機物を供給できる。

イ 敷草による土壌化学性の改善 草生部分の刈草を樹冠下へ敷革することにより、10a当り500kgの堆きゅう肥を樹冠下へ施用したのと同程度の化学性の改善効果がある。

ウ 草生栽培のやり方 草生栽培は、耕うん-整地-播種-土かけ(鎮圧)の手順で行う。 (ァ) 耕うんと整地 既存園における播種期は9月10日ころを目標とし、播種10目前ころから耕うんを繰り返して雑草を少なくする。項斜地では全園を一度に耕うんすると土壌侵食があるので播種部分だけとする。ギシギシ、夕ンポポなど宿根性雑草はその時拾い集めるか、耕うん前までにラウンドアップ液剤又はタッチダウン液剤を使用する。ラウンドアップ液剤は遅くとも耕うんの10日〜15日前に散布する。特にギシギシは耕うんによって増えるので注意する。 (ィ) 播種 @ 草種と播種量 草種と播種量は表のとおりである。部分草生栽培では播種面積が全面草生より少なくなるから実面積に応じて電極量を決める。

A 播種期 播種は5月から9月までの期間中で土壌に湿りのある時であればいつでも良いが、雑草に負けないで牧草の揃いを良くするために9月上旬がよい。 B 土かけ 播種後の覆土、鎮圧はローラー、ドラム缶、クローラー型運搬車などを利用する。 C 播種後の手入れ いずれの牧草も発芽後1〜2か月は生育が鈍く、他の雑草に負けるから高刈りして牧草を保護する。また、ギシギシ、タンポポなど宿根性雑草が残っている場合は根が伸びないうちに抜き取る。 エ 草生園の管理 (ァ) 樹冠下の耕うん 4月下旬から5月上旬頃に、表層5cm程度を糾うんし、有機物と石灰質肥料の土壌への還元を促進させる。 (ィ) 樹冠下への敷草 刈り取りは、5月上、中旬から9月まで数回行ない、刈り取った草は樹冠下へ敷草する。 オ 草生の更新と草生部分の酸性矯正 牧草は産草量が落ちたら更新する(播種後5〜6年)。また、更新時には所定量の石灰質肥料を施用して酸性矯正する(「酸性土壌の改良」の項を参照)。 (2) 堆きゅう肥の利用 地力の増進を図るためには、有機物の大量施用が必須条件であり、牧草草生を基本とし、さらに積極的に堆きゅう肥の施用を図る。 ア 堆きゅう肥の種類と利用性 堆きゅう肥には稲わら堆肥(速成堆肥)、もみ殻堆肥、おがくず牛糞堆肥、パーク堆肥、剪定枝堆肥などがあるが、いずれもよく腐熟したものを使用する。 イ 堆きゅう肥の簡易品質判定 よく腐熟しているかどうかは外観だけでは見分けにくく、その見分け方としてコマツナを使った幼植物検定法がある。その方法は次の通りである。 (ァ) やり方 深さ10cm、縦、横20cm位の大きさの箱に、土と堆きゅう肥を5:1(容積比)の割合で混合したものと、土だけを入れたものを準備する。使用する土は現場で得られるものでよく、特に吟味する必要はない。コマツナの種子を1か所4粒、1箱当たり4〜5か所に播種し、発芽4〜5日後に間引きを行い、1か所1株ずつにする。時々かん水して2〜3週間後に生育を比較する。 (ィ) 評価 コマツナの生育が土だけのものと同等か、それ以上の場合は堆きゅう肥がよく腐熟していることを示している。また、土だけのものより劣る場合は、よく腐熟していないことを示しており、このような堆きゅう肥はさらに十分腐熟させてから使用する。 ウ 堆きゆう肥の施し方 (ァ) 施用量 十分に管理された牧草草生園で地力増強を図るには、りんごの根群密度の高い樹冠下(10a当たり500m2)に600kg程度施用する。 (ィ) 使用方法 4月下旬から5月上旬頃、堆きゅう肥と石灰質肥料を施用し、耕うんして土壌に鋤込む。 (ゥ) 堆きゅう肥利用上の注意 @黒色火山灰土壌や粗粒で乾燥し易い土壌では、紋羽病が発生し易いので完熟した堆肥を使用する。 A堆きゅう肥の施用量は多いほど地力増進効果が高く、通常、10a当たり3〜4tくらい施用しても樹勢を狂わすことはないが、長年施用して枝が徒長気味になったら施用を中止するか化学肥料を控える。 B牛舎、豚舎から搬出直後の家畜糞尿物は腐熟していないので、十分腐熟してから施用する。 Cきゅう肥は速成堆肥に比べて窒素成分が多いので過剰施用にならないように注意する。 エ 堆きゆう肥の作り方 (ァ) 稲わら堆肥(速成堆肥)

(ィ) もみ殻堆肥 もみ殻堆肥の作り方は、基本的には稲わら堆肥と同様であるが、もみ殻堆肥は乾燥しやすいので水分保持を上手にやること、窒素源として鶏糞を利用すること、また、他の有機物と混ぜたり、少量のもみ殻を堆積するよりも、大量(大規模)に堆積するとよく腐熟する。

(ゥ) 剪定枝堆肥 剪定枝堆肥の特徴は、パーク堆肥とほば同じと考えられるが、外国材や針葉樹のパーク堆肥のように不良成分を含んでいないので、腐熟が十分であれば優良な堆肥として使用できる。剪定枝堆肥の欠点としては、腐熟の十分でないものを施用すると紋羽病の発生を助長すること、10aから200〜300kg(直径5〜6cm以下)の剪定枝で、その1.5倍量の300〜450kgしか確保できないこと、腐熟するまでに稲わら堆肥より長時間を要することなどが上げられる。剪定枝堆肥は、窒素源として鶏糞を使用した方が腐りやすい。しかし鶏糞だけでは、悪臭が出やすいので剪定枝100kg当たり鶏糞20〜40kg、石灰窒素4〜7kgを添加する。

オ 堆きゆう肥の成分組成 堆きゆう肥の成分組成は、腐熟促進のための添加物や腐熟度の違いなどによって異なるが、りんご園で使用されている堆きゅう肥を分析した結果は表のとおりである。

(3) 稲わらマルチの利用法 稲わらマルチは紋羽病の発生を助長させることがなく、乾燥防止効果が高いので、乾燥しやすい園地では次の点に注意して稲わらマルチを積極的に行う。 ア 稲わらマルチの方法は、1m2当たり4kgの割合で、わい性台樹(成木)では幹を中心として2m四方に16kg、普通台樹では5m四方に100kgをマルチする。 イ 稲わらマルチを継続すると土壌中の窒素とカリ含量が高まるので、窒素施用は樹勢をみて加減する(「施肥」の項を参照)。 ウ 野ネズミの被害を防止するため、秋に根元の稲わらを取り除くなどの対策を行う。 |
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2) 除草剤の利用 草生栽培園では有機物を補給するために草刈機で草を刈り取り、苗木畑などは人手による除草が望ましいが、労力的に間に合わない場合や草刈機を使用できない場所では除草剤を利用する。 (1) 樹冠下(苗木、わい化園、普通台園)除草の場合 雑草発生前の早春にシマジン水和剤を単用散布するか、雑草の発生が始まった4〜5月ころにシマジン水和剤と刈り取り代用の薬剤を混用散布する。また、夏季に雑草が発生した場合は刈り取り代用の薬剤を散布する。その他注意事項は次のとおりである。 ア 雑草生育後の散布量は刈り取り代用の場合と同様に草丈に応じて散布する。また、散布は天気の良い日に行う。 イ 苗木、わい化園はもちろん普通台園でも砂質土壌など水はけの良すぎる土壌ではDCMU剤を含む薬剤(カーメックスD水和剤、ゾーバー(水和剤))を使用しない。また、ハービー液剤はマメコバチに悪影響を及ぼすのでマメコバチの活動期間中は使用しない。 ウ 薬害を出さないためにりんご樹に直接かからないようにする。

(2) 草生刈り取り代用の場合 樹齢、土壌条件、草種に応じて薬剤を選択する。また、各薬剤の使用法は次表のとおりであるが、草丈30cm以下で繁茂が少ない場合は散布量または投薬量の少ない方を、草丈30cm以下で繁茂が著しく密度の高い場合及び草丈30cm以上に伸びた場合は散布量または投薬量の多い方を選ぶ。また、散布は天気の良い日に行い、いずれの薬剤も茎葉面によくかかるようにする。なお、除草剤の種類による使用期限と使用回数は表を参照する。


(3) ギシギシなど多年生雑草の除草 ギシギシ(俗称シノベ、シノハ)やヨモギ、タンポポなど多年生雑草の多い園では右表の薬剤を処理する。なお、処理時期は種子の飛散を防ぐために雑草の開花前に散布する。

(4) 除草剤の使用時期及び使用回数

除草剤使岸上の注意 除草剤使用に当たっては薬剤のラベルの注意を読んで使用する。特にプリグロックスL(液剤)、マイゼット(液剤)はパラコート5%とジクワット7%の混合剤なので、その保管管理を万全にするとともに、使用に当たっても十分注意する。 ア 施錠できる保管庫に入れる。 イ 使用に当たっては、原液を他の容器に移し換えない。また、子供の手の届く所には置かない。 ウ 散布者は必ずマスク、眼鏡、手袋を着用する。散布時には子供など第三者が現場に近づかないように注意する。
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