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4.主要病害の防除 |
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1) 腐らん病
発生面積率は、昭和63年以降順調に減少し続けてきたが、ここ数年は15%前後と横ばい状況となっている。地域によっては、増加傾向に転じているところもあるので、防除対策を今まで以上に強化する必要がある。
(1) 生態の概要
ア 枝腐らん・・・・・・4〜5年生以下の比較的細い枝に形成された病斑。主に果台や剪定痕、枝の先枯れ部に淡褐色の病斑が形成され、やがて枝枯れとなる。 イ 胴腐らん・・・・・・主幹や主枝等の大枝に形成された病斑。春先には病斑が湿り気をおびて茶褐色を呈し、指で押すと弾力性があり、アルコール臭を発する。 ウ 菌の発育温度・・・・・・5〜35℃、適温25℃。 エ 品種間差異・・・・・・枝幹部の発病には明らかな差はないが、果柄(つる)の落ちにくい北の幸、ふじ及び国光では摘果後の果柄感染による果台発病が多い。 オ 感染時期及び侵入部位・・・・・・感染が最も多いのは収穫後から翌年の6月頃までの期間で、摘果後の果柄や採果痕(果実を収穫した痕)、剪定痕などの新しい傷口から侵入しやすい。古くなった傷口からは侵入しにくい。 カ 感染から発病までの期間・・・・・・病原菌が侵入すると、約1年間を要して典型的な病斑を形成する

(2) 観察の要点 枝腐らんは12、1月の早い時期にも見られるが、多くは3月以降に現れるので、剪定の時に注意すれば樹皮が褐変している枝を発見できる。発芽・展葉後では発病部位の上部が発芽しないか枯死するので発見しやすい。胴腐らんは枝幹部のどこにでも発生するが、枝の分岐部や主枝背面の徒長枝を切り取った跡及び枝の切口などから発病している場合が多い。降雨時には病斑上の子座(黒色のブツブツ)から澄色の粘液を噴出するが、これは柄胞子の集塊である。
(3) 防除の要点 薬剤散布だけに頼ることなく、粗皮削りや堆きゅう肥の施用など耕種的対策も合わせて広域的に行うことが大切である。
ア 予防 (ァ) 収穫後散布 収穫後の薬剤散布は、採果痕などからの感染防止効果が高いので、できるだけ早めに晴天の日を選んで必ず実行する。散布薬剤は、トップジンM水和剤1,000倍、ベンレート水和剤2,000倍、べフラン液剤1,000倍のいずれでもよい。
(ィ) 芽出し当時の散布 芽出し当時の薬剤散布は、収穫後散布同様に効果が高いので、必ず実施する。散布薬剤は、ベフラン液剤1,000倍にマシン油乳剤(97)100倍を混用して遅れないように注意して散布する。 (ゥ) 落花30日後頃の散布 トップジンM水和剤1,500倍及びべンレート水和剤3,000培は摘果後の果柄感染の防止効果が高いので、発生の多い所では落花30日後頃の基準薬剤に必ず加用する。 (ェ) 摘果剤の活用 (摘果によって果台に残された果柄からも病原菌が侵入して感染するので、摘果剤(ミクロデナポン水和剤)を積極的に使用して果台に果柄が残らないようにする(「薬剤による摘果」の項を参照)。 (ォ) 剪定上の注意 剪定の際、枝の付け根からできるだけ切株を残さずに切り取るのが良い。切り残しが長いと粘れ込みが生じ、腐らん病にかかりやすい。剪定時期は経営規模や労働力事情によって異なるが、腐らん病予防の上から初冬や厳寒期は避け、できるだけ3月以降とする。

(ヵ) 切口及び傷口の保護 剪定によって生じた切口には、バッチレートをできるだけその日のうちに塗り、感染の防止とカルス形成の促進に努める。
(キ) 粗皮削り 胴腐らんは早春から発病し、病斑が拡大する。発芽前に粗皮削りを行うと胴腐らんを早期に発見することができ、胴腐らんの早期発見・早期治療に役立つので必ず実施する。 (ク) 収穫時の注意 本病原菌は収穫時につる折れ、つる抜けとして残った果柄から侵入して発病することが多いので、果柄が果台に残らないように丁寧に収穫する。果柄が残った場合は必ず果台から取り除く。 (ヶ)樹勢の適正化 樹勢が弱い樹は腐らん病にかかりやすいので、先刈りなど切り返しを多めにした剪定を行うとともに葉面散布や堆肥マルチを実施する。また、樹勢が極端に強いと凍害による侵入門戸の増加や本病に対する抵抗性の低下をまねくので、剪定は間引きを主体とし、施肥畳も減じて、樹勢の適正化に努める。 (コ) 堆きゅう肥施用 堆きゅう肥を施用すると腐らん病に対する樹体の抵抗性が高まり、発病しにくくなる。草生栽培を活用しながら積極的に堆きゆう肥を施用する。 イ 治療 (ァ) 枝腐らんの切り取り処分 枝腐らんは剪定の際には徹底的に切り取ることはもちろん、5〜6月以降も発病してくるので随時見回り、見つけ次第切り取る。また、病原菌は外観上の病斑よりも先まで侵入しているので、切り取る際は健全部を5cm以上含めて切り取り、病原菌が残らないようにする。切り取る場合は、その後のカルス形成を良好にして枯れ込みを少なくするために、健全な芽(または枝)のすぐ上で行う。せっかく切り落とした被害枝をそのまま園内に放置すると、そこから病原菌が飛散し、まん延のもとになるから必ず処分する。なお、健全な枝であっても切り取ったあとは園内に放置したり、支柱などに使用しない。 (ィ) 胴腐らんの処置 剪定時から随時園内を見回って胴腐らんの早期発見に努め、被害部には次のいずれかの処置をする。治療病斑の大きい枝幹部は折れやすくなるので、適宜支柱を入れる。なお、横径が幹周の2/3以上の大型病斑では治癒率が極端に低下するので、枝ごと切り落として処分する。
i 削り取り法による治療 病患部を専用のナイフ又は携帯型の削り取り機「樹皮スクレーパ」で削り取り、その跡に塗布剤を塗って治療する方法である。使用する塗布剤には、その有効成分が樹皮内部の深いところまで浸透するタイプと浸透しないタイプの2種類があるので、それぞれの特性を良く理解して間違いのないように行う。なお、病原菌は枝腐らんの場合と同様、病斑境界部よりも2〜3cm先の健全部にまで侵入している。木質部でも1cm前後の深さまで侵入している。治療はこのような病原菌の侵入範囲に十分配慮して実施する。 @トップジンMオイルペーストによる治療 本剤の有効成分は樹皮内部の深いところまで浸透するので、以下の手順で病患部と周辺健全表皮を削り取って塗布する。病斑の境界部を確認し、内側の腐敗した樹皮を削り取る。次に、薬剤の浸透性を高めるため、病斑境界部から外側の健全な樹皮表層を厚さ1〜2mm程度に薄く削る。その範囲は、上下方向では4〜5cm、左右方向では2〜3cmとする。削り取った跡にはトップジンMオイルペーストを丁寧に塗布する。削り屑は拾い集めて処分する。なお、本剤の有効成分は耐性菌を生じやすい性質をもっているので、再発病した場合は直ちに次のAによる方法、あるいは泥巻き法で再治療する。本剤は治療後のカルス形成を阻害する傾向が強いので、カルス形成が劣る衰弱樹の腐らん病治療には適さない。また、銀業病に対する効果も劣るので、剪定痕などの切口保護にも使用しない。 Aフランカットスプレー、バッチレート又はベフラン塗布剤による治療 これら3種類の塗布剤は有効成分が樹皮内部に浸透し難いので病患部だけでなく周辺健全部もていねいに削り取ってから塗布する。作業手順は以下のとおりである。病斑部の削り取りは、枝幹部の上下方向に沿って病斑境界部から5cmぐらい外側までの健全部を含めて行う。この場合、削り取った跡が紡錘形になるようにする。また、樹皮の切断面が木質部と直角になるようにすると、その後のカルス形成が良い。削り取った跡にはフランカットスプレー、バッチレート又はべフラン塗布剤のいずれかを塗布する。ただし、べフラン塗布剤及びフランカットスプレーではカルス形成促進効果が期待できない。削り屑は拾い集めて処分する。 A 泥巻き法 泥巻きは次の手順で実施する。水を加えて団子状にこねた泥を、病斑部よりも5〜6cm広めに、3〜5cmの厚さに張り付ける。さらにその上をビニール又はポリエチレンなどで被覆し、内部の泥の乾燥を防ぐようにして約1年間そのままにしておく。泥巻きを行う場合、病斑部は削らなくてもよいが、病斑部を簡単に削り取ってから泥巻きを行うと一層効果的である。なお、火山灰土壌を使用する場合は、容積比で土が9に対して土壌改良資材の一種であるべントナイト1を加えてこねると粘着性が増し、泥巻き作業の能率が良くなる。泥を作るには土とべントナイトをよく混ぜてから水を入れて練る。この際、ベントナイトは量が多過ぎると樹皮が腐敗し、治癒効果も低下するので加える量を誤らないようにする。泥巻きで注意しなければならない点は、被覆内部で泥の付いていない部分の皮層部が腐敗(内部腐敗)することである。これを防止するためには、ときどき腐敗の有無を点検すると共に、被覆部を結束する場合は、内部が過湿にならないように弱めに行うこと、泥を張りつけた反対側の被覆部に小穴をあけて、水滴がたまったり過湿にならないようにすること(特に、水平に近い枝の場合は大切である)及び被覆部を必要以上に広くしないことである。

(ゥ)橋接ぎなどによる樹勢回復 胴腐らんにかかり、大きく皮層部を削り取った場合は、樹勢が衰弱するので橋接ぎを行い、樹勢回復に努める。また、尿素の葉面散布などによる樹勢回復を図る。 (ェ) 激甚被害樹の更新 胴腐らんの発病が激しく、主枝など大半の枝が剪去され、収量が著しく減少した樹は、治療対策を講じても回復が容易でなく、また樹勢衰弱により再感染率も高い。時には病原菌の伝染源にもなりかねないので、回復の見込みのない場合はむしろ積極的に伐採した方が良い。したがって、腐らん病の発生の激しい園では補植用苗木の養成を早めに行い、更新を円滑に行う。
ウ 広域防除体制の確立 最近の多発生要因の一つに放任園あるいは管理不良園が周囲に影響を与えていることも挙げられる。腐らん病防除は個々の農家の努力が基本であるが、同時に広域防除体制もとらなければならない。 |
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2) 黒星病 平成元年以降発生は少なめに経過してきたが、平成5年は全県的に多発し、平成10年にも発生が目立った。このように本病は、冷涼・多湿の天候が続くと県内いずれの地域でも多発する懸念がある。各種情報に注意し、適期防除に努めることが重要である。
(1) 生態の概要 ア 病原菌は被害落葉、枝の病斑及び芽の鱗片で越冬するが、その中で被害落葉は量的にも多く、第一次伝染源として最も重要である。 イ 被害落葉には翌春までに子のう殻、子のう、子のう胞子が順に形成され、成熟した子のう殺が完成する。降雨があると子のう胞子が子のう殻からはじき飛ばされ、葉や果実に付着、侵入して最初の病斑を形成する。 ウ 子のう胞子は通常開花直前から落花20日後ころまで多く飛散するが、特に落花期ころの飛散量が多い。初発は5月中句であり、6月始め頃から増加する。 エ 病斑上には分生胞子が形成され、降雨があると飛散して葉や果実に新たな病斑を形成する。子のう胞子による発病が多い場合、分生胞子の飛散量は子のう胞子よりはるかに多く、それらによって生じる被害もより激しくなる。 オ 分生胞子による感染は秋まで繰り返し行われるが、真夏の高温時には一時停滞する。 カ 果実が8月以降に感染した場合、収穫時に病斑が認められず、貯蔵中に発病してくることがある。
(2) 観察の要点 ア 葉では最初直径数mm、周囲不明瞭の緑褐色の小斑点として現れ、かすかにすす状を呈する。その後、病斑はやや拡大し、褐色〜暗褐色のすす状の斑点となる。すす状に見えるのは分生胞子が多数形成されているからである。 イ 病斑は葉の表裏いずれにも発生するが、初期にはいずれか一方に限られることがあり、裏面に発生した場合には見逃しやすいので注意が必要である。 ウ 葉の表面に現れた病斑は古くなると隆起し、時には穴があく。 エ 発生が激しい場合には1葉当たりの病斑数が多く、時には葉の一部又は全体がすすに覆われたようになり、早期に落葉する。 オ 果実では最初黒色すす状の小斑点となって現れる。幼果ではがくあ部の周辺に発病することが多く、逆に秋に感染した場合はつる元や肩に多く発病する。 カ 幼果に発病した場合、病斑は果実の肥大とともに拡大し、症状もすす状からかさぶた状になる。果実は正常な生育が抑えられるため、奇形になったり、著しい裂果となったりする。 キ 葉に感染後、病徴が現れる前にEBI剤を散布した場合、紫褐色〜褐色の治癒型病斑が発現することがある。
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3) 斑点落葉病 近年、本病は9月中旬以降に急増する場合が多い。8月下句までの防除で病原菌密度を低下させておくことが大切であるから、気象に留意し、防除に手抜かりのないようにする。 (1) 生態の概要 5月・・・上旬以降、越冬源(被害落葉と被害枝上の病斑)上に分生胞子が形成され、飛散する。下旬に葉に病斑が初めて発生する。 6月・・・葉の病斑が漸増し、デリシャス系品種などのり病性品種では幼果への病原菌の侵入が始まる。 7月・・・葉の病斑が増加し、落葉が一部見られる。有袋果は中〜下旬から果実への病原菌の侵入が始まる。 8月・・・病斑上に大量の分生胞子が形成され、飛散する。葉の病斑がますます増加し、落葉も見られる。新梢にも病斑が見られる。果実への病原菌の侵入が盛んになる。 9月・・・落葉が増加する。果実病斑が多くなる。 (2) 観察の要点 ア 葉の病斑 5月下句に初期病斑が形成され、6月から次第に増加し、7月下句以降急増する。本病は高温、多湿で急増するので注意する。病斑には円形病斑と流れ型病斑の2つの夕イブがある。このうち流れ型病斑が多くなると落葉が激しく、被害も大きくなる。 イ 果実病斑 デリシャス系品種などのり病性品種では6月から発生するが、ふじ、陸奥などの有袋果では7月下旬から発生する。 ウ 枝上病斑 主として徒長枝の皮目を中心に形成される。
(3) 防除の要点 ア 薬剤防除 (ァ) 初期防除・・・落花直後から落花15日後頃まで、次のような防除体系で実施する。 落花直後 EBI混合剤 落花15日後頃 EBI混合剤 (EBI混合剤の種類については「黒星病の項」を参照) (ィ) 後期防除・・・落花30日後頃以降は本病の発生状況に注意しながら8月下旬まで次のいずれかの薬剤を散布する。

(ゥ) 防除薬剤の使用上の留意点 @ 7月下句以降に斑点落葉病の急増の懸念のある場合は基準薬剤にポリオキシンAL水和剤1,000倍又はロブラ―ル水和剤1,200倍を加用する。 A ポリオキシンAL水和剤及びロブラール水和剤は薬剤耐性の心配があるので、7月中旬まではできるだけ使用しないようにするとともに同一薬剤の連続散布は避ける。 B べフラン液剤及びアリエッティC水和剤は他剤と混用する場合、最後に加用する。 C プラウ水和剤又はユニックスZ水和剤はおうとうに対して薬害を発生させる懸念があるので、飛散しないようにする。 D ユニックスZ水和剤はクローバー類に薬害を生じる懸念があるので、発芽期から生育初期のクローバー類に飛散しないようにする。 E ストロビードライフロアブルはスミチオン水和剤との2種混用、あるいはスミチオン水和剤とオマイト水和剤又はダーズバン水和剤とオマイト水和剤との3種混用で、つがるに黄変落葉の薬害を生じる恐れがあるので、つがるには使用しない。 F ストロビードライフロアブルは開花期以降のおうとうに対して、葉に褐変などの薬害を発生させるので、周辺にある場合はかからないように注意する。
イ 果実被害防止 無袋にするのが最も効果的であるが、有袋栽培の場合は7月下旬以降に果実病斑の発生の危険性が高くなるので10日ごとの散布を守る。 ウ 不要な発育枝の剪去 6月以降に随時不要な発育枝を剪去して病原菌の伝染源をなくする。 |
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4) 紋羽病 青森県における紋羽病の被害樹は約1割あるものと推定される。最近、従来発生の少なかった紫紋羽病の被害が増加している。紋羽病は土壌という複雑な環境や樹勢と密接に関係して発生するので、個々の対策を総合的に行って防除に努めなければならない。 (1) 生態の概要と観察の要点 ア 紋羽病には白紋羽病と紫紋羽病があって、両病ともりんごばかりでなくぶどう、なしなどの果樹や桑などにも発生する。 イ 県内には紋羽病の発生しやすい火山灰土壌の園地と発生の見られない埴質沖積土壌の園地がある。 ウ 地上部の症状 (ァ) 初期の症状は秋の落葉が早く、果実の着色が良好で、樹皮の色が淡くなる。 (ィ) 中期の症状は新梢の伸びが劣り、葉色がやや淡く、花芽及び着果量がやや多くなる。 (ゥ) 後期になると新梢の生育が著しく劣り、葉が黄変し、果実が小玉になり、樹勢が著しく劣って枯死する。 エ 地下部の症状 白紋羽病:根の表面に白色の菌糸束が付着し、日光が当たると暗緑色になる。木質部の表面と内部には白色の扇状及び星状の菌糸束が見られる。病原菌は組織内に深く侵入するので、表皮と木質部は離れにくい。 紫紋羽病:根の表面に褐色〜紫褐色の菌糸束が網目〜マット状に付着する。夏から秋に幹の地際部に紫〜褐色の子実体がマット状に形成される。病原菌は根の皮層だけを腐敗させるので表皮は木質部から容易に離れる。 (2) 予防法 紋羽病の発生が心配される場所ではクロルピクリンで土壌消毒した後に栽植する。その場合、通常は下記の全面土壌消毒法でほぼ予防できるが、特に病原菌密度が高い場所でわい化栽培を行う場合は根域遮断法で予防する。ただし、付近に住宅や畜舎のある園地ではクロルピクリンによる消毒は行わず、植え穴客土や栽培管理を主体とした予防を行う。 ア クロルピクリンによる跡地消毒法 本剤は土壌注入前の深耕、整地と土壌注入後のポリエチレンフィルム被覆によって安定した防除が得られる。特にポリエチレンフィルムによる被覆が不十分だと効果が劣るだけでなく、場合によっては薬剤が急速に気化して周辺の農作物や人畜に被害を及ぼす懸念があるので、強い風が吹いても飛ばされないようにポリエチレンフィルムを固定する。跡地消毒は以下の基準で行う。 (ァ) 薬剤処理を行う前に新種園、改植園及び被害跡地を深耕して、被害根はもちろん健全根も根の大小を問わず、丁寧に拾い集めて処分する。 (ィ) 整地したあと、専用の土壌消毒機を用いて、30cm四方に1カ所の割合でクロルピクリンの原液(99.5%)5mlを深さ30cmに注入し、直ちに注入口を踏み固める。なお、土壌消毒機には自走タイプ、牽引タイプ、ハンディタイプの3種類がある。 (ゥ) 処理は春から秋に行うが、高温時には行わない。また、処理後には必ず厚さ0.03mのポリエチレンフィルムで地表面を被覆する。 (ェ) 3週間以上被覆した後、被覆物を取り除き、薬剤の臭いがしなくなってから、土壌改良を行って植え付ける。 イ 根域遮断法 本法は樹列部分を周りの保菌土壌からポリエチレンフィルムで隔離し、内側の隔離土壌をクロルピクリンで消毒してから栽植する方法である(U-16図)。栽植距離を列間4m、樹間2mとした場合の手順は以下のとおりである。 (ァ) 樹列間2mの両側。両端に溝幅約15cm、深さ80cmの溝を掘る。その際、トレンチャーを使用すると効率よく作業できる。 (ィ) その溝に厚さ0.1mm、幅135cmのポリエチレンフィルムを入れる。その場合、フィルムが樹列側に密着するように溝底まで埋設し、地上部には20cm程度残す。また、ポリエチレンフィルムの継ぎ足し部分や遮断の末端部分は2m程度二重に重ねる。なお、遮断には必ずポリエチレンフィルムを使用し、ビニール(酢ビ、塩ビ)やポリオレフイン系資材は使用しない。 (ゥ) 遮断した樹列部分にロ一タリーをかける。その際、遮断資材を破損しないように注意する。その後、クロルピクリンを注入する(注入量及び注入深度は上記の全面土壌消毒法を参照)。 (ェ) 薬剤処理後、樹列を厚さ0.03mのポリエチレンフィルムで覆う。約3週間後に被覆物を除去し、ガス抜きをしてから栽植する。 (ォ) ポリエチレンフィルムは地上部付近では年数が経ると破損し、根がこの部分から遮断域以外の未消毒部分へ伸長して罹病することがあるので、その根を見つけしだい削除する。 (ヵ) 栽植距離が樹列4m、樹間2mにおさまらないような場合には、根がポリエチレンフイルムの下端から遮断域外の未消毒部分に伸長して罹病することがある。 ウ 土壌改良 土壌消毒を行った後に行う。全面消毒法では全園の土壌改良と植え穴改良を、根域遮断法では樹列部分の土壌改良と植え穴改良を行う(「新植及び政権時の土壌改良」の項を参照)。 エ 植え穴客土による予防 わい化栽培においては植え穴(60×60cm)に埴質沖積土壌を客土すると極めて高い予防効果がある。この場合、石灰質肥料と溶成りン肥を施用する。客土する沖積土壌を青森県りんご園土壌調査分類で示すと、津軽地方では岡本統、中野目統など、県南地方では南部統が適当である。 オ 植え付け時の苗木消毒 白紋羽病:植付け前に苗木の根部をトップジンM水和剤500倍液又はベンレート水和剤1,000倍液のいずれかに10分間浸潰する。浸漬後は根が乾燥しないようにして、できるだけ早く植え付ける。 紫紋羽病:使用できる薬剤がないので、健全苗を選んで植え付ける。

カ 適正な樹勢の管理 (ァ) 堆肥マルチを行うと高い予防効果があるので次のように行う。わい性台樹では堆肥を幹中心に1m四方に30kg(りんご箱1杯分)、普通台樹では2.5m四方に180kgを毎年マルチする。 (ィ) 排水溝の設置、かん水、草生栽培などを行って、樹を弱らせないようにする。 (ゥ) 肥培管理を良好にして樹勢強化に努める。 (ェ) 強勢定を避け、樹体に急激な変化を与えない。 (ォ) 発育枝を利用して樹を若返らせる。 (ヵ) 果実を成らせ過ぎると発根が抑制され、発病しやすくなるので適正な着果量にする。 (キ) わい化栽培においては樹が衰弱しやすいので、樹勢強化に努める。また、苗木がマルバ台木付きの場合には、高接病による紋羽病の誘発を防ぐため、マルバ台木を切り取って使用するか、品種、台木ともウイルスフリーのものを使用する。
(3) 治療法 ア 早期発見 (ァ) 治療は発病初期に行うことが最も大切である。 (ィ) 罹病樹を初期に発見するには黄変落葉の早い樹、急に着色が良好になった樹、新梢の生育がやや劣る樹及び発病樹の隣の樹の根元を掘り病原菌の寄生状況を観察し、白紋羽病と紫紋羽病を区別する。 イ 露出灌注法による治療 (ァ) 罹病樹は土を掘り上げ、根を露出させて被害程度を調査する。 (ィ) 根が8割以上腐敗している場合には伐採処分し、回復可能な被害樹を対象に以下の手順で治療する。 (ゥ) 土を掘り上げ、罹病樹の根を露出させて、先端まで腐朽した根は取り除き、先端が健全な根は被害部を削り取る。 (ゥ) 土を掘り上げ、罹病樹の根を露出させて、先端まで腐朽した根は取り除き、先端が健全な根は被害部を削り取る。 (ェ) 白紋羽病の場合はトップジンM水和剤1,000倍又はフロンサイドSC1,000倍、紫紋羽病の場合はダイセンステンレス液剤1,000倍、リゾレックス水和剤1,000倍又はフロンサイドSC1,000倍を使用する。また、白紋羽病と紫紋羽病の併発樹や区別できない被害樹では、トップジンM水和剤1,000倍にダイセンステンレス液剤1,000倍又はリゾレックス水和剤1,000倍を加用して処理するか、フロンサイドSC1,000倍を単用で処理する。処理量は成木では300l、若木では100〜300lとする。ただし、フロンサイドSCはわい性台樹又はマルバカイドウなど普通台樹の若木での使用に限り、その処理量は最大200lとする。各薬液には尿素を500倍になるように加用する。 (ォ) 露出した根は薬液で洗う。さらに、掘り上げた土にも薬液を良く混ぜ合わせながら覆土する。 (ヵ) 覆土の際、1樹当たり完熟堆肥100〜200kgを入れるか、カニガラ配合肥料5〜10kgとパーライト50〜100lを入れると一層有効である。 (キ) 全摘果する。特にダイセンステンレス液剤は結果樹に使用できないので、必ず全摘果する。 ウ 土壌注入法による治療 (ァ) 8〜9月の早い時期から果そう葉を中心に黄変落葉が見え始めたり葉色がやや淡くなるなど発病初期の症状を呈している軽症樹を対象に動力噴霧機又はスピードスプレーヤに連結した土壌灌注器を用いて、所定の薬剤を土壌注入する。 (ィ) 紫紋羽病の場合は、リゾレックス水和剤1,000倍又はフロンサイドSC1,000倍、白紋羽病の場合は、フロンサイドSC1,000倍を使用する。また、紫紋羽病と白紋羽病の併発樹又は両者を区別できない場合は、フロンサイドSC1,000倍を使用する。なお、フロンサイドSCはマルバカイドウなど普通台の被害樹において、薬剤の処理量と治療効果との関係が明らかでないので、普通台樹には使用しない。 (ゥ) リゾレックス水和剤 処理時期:春から秋まで随時、ただし着果樹は収穫60日前まで。 処理方法:樹幹から半径0.6〜2m、深さ30cmまで、1u当たり約40lの薬液を土壌注入する。処理量は、わい性台樹では50〜150JB、普通台樹では200〜500lとする。 (ェ) フロンサイドSC 処理時期:春から秋まで随時、ただし着果樹は収穫45日前まで。 処理方法:わい性台樹の被害樹を対象に樹幹から半径1m、深さ30cmまで、20〜30cm間隔で30〜40か所、1か所2〜3l、1樹当たり100lの薬液を土壌注入する。 エ 治療樹の管理 (ァ) 治療後はできるだけ1年間着果させず、その後も完治するまで着果量を制限する。 (ィ) 堆きゅう肥の施用や尿素の葉面散布などにより、樹勢回復に努める。 (ゥ) 台木又は苗木を寄接ぎする。 (ェ) 堆肥マルチ、敷わら、夏期のかん水などにより園地の乾燥防止に努める。 (ォ) 毎年、治療樹の根元を軽く堀上げて良く観察し、菌糸束の繁殖が認められる場合は再び治療する。 |
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5) 銀葉病 近年、本病は慢性的に発生が多い。

(1) 生態の概要 ア キノコ(ムラサキウロコ夕ケ)は症状の進んだ樹に、ほば年間を通じて発生するが、発生の最盛期は10月下句から12月上旬ころである。 イ キノコからの胞子飛散も年間を通じて行われるが、降雨や融雪などでキノコが濡れている場合に特に多くなる。 ウ 飛散した胞子は新鮮な切口(枝の切口、枝の裂傷部、剪定痕など)から侵入、感染する。感染の危険性は冬期から早春に最も高く、剪定時期と一致する。 エ 病原菌は木質部で繁殖して毒素を出し、毒素が葉に到達すると銀葉症状が現れる。 (2) 観察の要点 ア 葉が鈍い鉛色を呈し、症状が進むと葉の表面に細かい亀裂を生じて葉が変色し、早期に落葉する。 イ 果実は小玉になり、着色が劣り、蜜入り果が多くなる。 ウ 重症樹の主幹や主枝にムラサキウロコタケと呼ばれるうろこ状〜かわら状のキノコが生じる。 エ 成木や老木に発生が多い。 (3) 防除の要点 ア 伝染源を撲滅するためムラサキウロコタケの生えた重症樹は伐採する。この場合、伐採した樹はもちろん切株も処分する。 イ 剪定後の切口や風雪害の裂傷部にはできるだけその日のうちにバッチレート塗布剤を丁寧に塗る。 ウ 発病の初期には樹勢を強化することにより自然に治る場合が多いことや樹勢の強い樹が発病しにくいことから、肥培管理、栽培管理に注意して樹勢強化に努める。 エ 現在、農薬による本病の治療法はないので、病原菌の伝播防止、侵入感染防止及び樹勢強化など総合的な予防対策を地域ぐるみで徹底するよう心がける。 |
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6) モニリア病 年によって大発生することがあるので手抜き防除はできない。芽出し当時と芽出し10日後の初期防除を徹底し、葉腐れ防止に努めることが重要である。 (1) 生態の概要 ア 早春に菌核からキノコが発生し、その上には子のう胞子が多数形成される。子のう胞子は飛散して椎葉に侵入し、葉腐れを引き起こす。葉腐れが進行すると花腐れになる。 イ 葉腐れや花腐れの上に分生胞子が形成され、開花中に柱頭に飛散、侵入して実腐れを引き起こす。実腐れが進むと株腐れになる。 ウ 実腐れ、株腐れが地上に落下して菌核になり、越冬して翌年の伝染源になる。
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7) うどんこ病 最近、発生が少なく経過しているが薬剤散布を省略すれば多発するので注意する。 (1) 生態の概要 ア 病原菌が芽の中で越冬し、発芽期から開花期にかけて花そう・薬そうに白い粉状の胞子を多数形成する。 イ 胞子が飛散して葉に侵入し、病斑が現れる。この侵入、発病は繰り返し行われる。 ウ 病原菌は7月ころから芽の中に入って越冬し、翌年の伝染源になる。 (2) 観察の要点 ア 越冬源 病原菌の侵入した芽はボケ芽になる。 イ 第1次発生 発芽後から落花直後に花そう・葉そう全体が白い粉をふいて奇形化する。 ウ 第2次発生 主として新梢葉の裏面に不整形で粉状の病斑が生じる。後期になると病斑は脱色され淡くなったり暗赤色になる。 (3) 防除の要点 ア 薬剤防除 うどんこ病の防除は次の防除体系で行う。 開花直前 EBI単剤 落花直後 EBI混合剤 落花15日後頃 EBI混合剤 (EBI混合剤の種類については「黒星病」の項を参照) イ 前年度の被害枝の剪去 剪定の際、被害枝を剪去して越冬源の密度の低下を図る。 ウ 被害花そう・葉そうの摘み取り 越冬した芽から出た花そう・葉そうに胞子が形成され、飛散して伝染源になるので見回って早めに摘み取る。 |
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8) 赤星病 最近、発生が少なく経過しているが、ビャクシン類の栽植されている所の近くの園で発生が見られているので注意する。 (1) 生態の概要 ア 病原菌はりんごだけでは世代を全うすることができず、必ず中間寄主としてビャクシン類を必要とする。 イ 本病原菌はりんごで約6か月、中間寄主(ビャクシン類)で2〜3年生活する。 ウ りんごでの生活 (ァ) 中間寄主上の冬胞子が発芽し、生じた小生子が飛散してりんごに付着、侵入する。飛散は4月下句から6月下旬に及ぶが最盛期は5月上旬から6月中旬である。 (ィ) 最初の病斑は5月中〜下旬に黄色の小斑点として現れる。 (ゥ) 7月下句ころから葉の病斑の裏面及び果実の病斑部に灰褐色の銹子毛と呼ばれる毛状物が束状に形成される。これがさび胞子世代である。 (ェ) 銹子毛からさび胞子が飛散してビャクシン類の若い小枝の基部に付着し、越冬する。さび胞子の飛散は8月から9月が最も盛んであるが一部は10月下旬まで続く。 エ 中間寄主(ビャクシン類)での生活 りんごからビャクシン類に飛散した赤星病菌は約10か月の潜伏期問を経て翌年の夏にビャクシン類の枝上に小さなコブ(菌えい)を形成する。この菌えいは発育肥大し、1〜2年目(りんごからビャクシン類に飛散して2〜3年目)の春に成熟して冬胞子堆を形成する。 (2) 観察の要点 ア りんご 主に葉に発生するが、まれに幼果や若い新梢にも発生する。5月中〜下旬に葉の表に径1mm位の黄色斑点が現れ、次第に拡大して0.5〜1cm位の病斑になる。病斑には多数の柄子器を形成し、粘液を出して光沢を帯びる。7月下旬以降に葉の病斑の裏に灰褐色の銹子毛を形成する。果実の病斑はがくあ部に生ずることが多く、果実の生育とともに拡大して葉の病斑よりも大きくなる。病斑部には葉の病斑と同様に銃子毛を形成する。 イ 中間寄主 (ァ) 種類・・・カイズカイブキ、タチビャクシン、ハイビャクシン(ソナレ)、ヒメソナレ、ケンパク、ミヤマビャクシン、ハマハイビャクシンなど。 (ィ) 症状 さび胞子が秋に若い枝や葉の上で越冬し、翌春に発芽侵入して夏に枝上に小さな菌えいを形成する。菌えいは発育肥大して翌年又は翌々年の春に冬胞子堆を形成し、これが降雨にあうと寒天質状になる。 (3)防除の要点 ア りんご 赤星病の防除は次の防除体系で行う。 開花直前 EBI単剤 落花直後 EBI混合剤 落花15日後頃 EBI混合剤 (EBI混合剤の種類については「黒星病」の項を参照) 発生の多い所では、落花30日後頃の基準薬剤にバイレトン水和剤(5)1,000倍を加用する。 イ 中間寄主(ビャクシン類) (ァ) 病原菌は中間寄主がなければ生存できないので、公園、庭園及び街路などであっても、ビャクシン類はできるだけ植えないようにするとともに、現在植えられているものも可能な限り伐採するか、その他の樹種に植え替える。特にりんご栽培者は自衛のため絶対植えないようにする。緑化樹の取り扱い業者もできるだけビャクシン類を移入しないようにする。 (ィ) ビャクシン類の伐採や菌えいの摘み取りができない場合は、ビャクシン類に4月下旬〜5月上旬にバシタック水和剤1,000倍を1週間間隔で2回丁寧に散布する。 |
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9) 黒点病 昭和63年に各地で発生したが、その後はほとんど発生がみられていなかった。しかし、平成8年に県南地方で多発しており、注意を要する。 (1) 生態の概要 ア 越冬した被害葉に子のう胞子が形成され飛散する。 イ 子のう胞子は落花直後から7月下旬ころまで飛散し、幼果や葉に侵入する。 ウ 感染の最盛期は落花10日後から落花30日後ころまでである。 エ 西洋なし及び日本なしも発病する。いずれも被害落葉に、越冬後、子のう胞子が形成され伝染源となる。 オ いずれの品種も発病するが、つがる、紅玉、ジョナゴールド、陸奥などが発病しやすい。 (2) 観察の要点 果実病斑は7月初めころから、主として果実のがくあ部を中心に緑色の小斑点として現れ、その後やや拡大して2〜3mmの濃緑〜黒色の斑点になる。赤道部の肩部に生じた病斑は大型で5〜6mmに達する場合もある。 (3) 防除の要点 本病の防除適期は落花10日後頃から落花30日後頃である。他の病害の同時防除もねらって落花直後、落花15日後頃にはEBI混合剤を、落花30日後頃には有機銅水和剤(80)1,200倍、ジラム・チウラム剤500倍、アントラコール顆粒水和剤500倍、プラウ水和剤1,000倍、ユニックスZ水和剤500倍のいずれかを散布する。ただし、黒点病の多発が懸念される地域では落花直後から落花30日後頃までの期間を10日間隔で防除する。この場合、落花10日後頃と落花20日後頃にはジラム・チウラム剤500倍又はジマダイセン水和剤600倍にうどんこ病防除剤(トップジンM水和剤1,500倍又はべンレート水和剤3,000倍)を加用して散布する。なお、ジマンダイセン水和剤はアルカリ性のものとは絶対混用しない。 |
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